コルク
コルクの長さと歳月について
古いワインを外見から判断する作業の中で、比較的重要な要素を占めるのがこのコルクです。
特級クラスのワインではコルクの長さがちょうどマッチ棒の長さの5センチ以上あるものもあり、そういったワインを扱うなかで生産者が長期熟成に向けて詰めたものだと日々実感しています。
コルクが長いことによってガラス瓶と接する面積が増え、液体の流出や熱などの干渉を長期に渡り防ぐ役目を果たしています。
コルクの鏡面(円筒形の丸い部分)以上にコルク側面が重要なのもあまり認知されていないような気がします。
ガラス瓶と密着しているのはもちろん鏡面でなく側面です。
さてこのコルクですが、一般にはワインの熟成以上の年代物である場合が多いのをご存知でしょうか。
ワイン栓に利用されるコルクは一般に「10年物のコルク」です。
言い換えると1~2年程度の早飲みワインにも贅沢なことに「10年物のコルク」が使われています。
ですからコルクが思ったように抜けなくても、そういった温かい視線で見守ってあげて欲しいと思います。
なおコルクはコルク樫そのものを伐採する必要はなく樹木から剥がした表皮を原料としています。
コルク樫は主にポルトガルなどの地中海沿岸部の国々に生息しており、コルク樫からコルクを製造するコルク産業はポルトガルの国内総生産の3%を占めるほどの重要な産業です。
またポルトガル産のコルクはワイン主要生産国で使用されており世界のコルクのシェアの約85%を占めています。
一人前にコルクが取れるまでにも歳月が必要です。コルク樫は樹齢約20年になると初めて剥皮を行います。
そしてその後は9~10年で再生され、約20回これを表皮を剥がすことが出来ます。
最初に剥ぎ取った皮を1番皮、以降を2番皮、3番皮......といった具合に呼んでいます。
写真:フランス・ボルドー地方・サンテミリオン地区の高台からの景観
コルクを抜く力について
コルクを抜くには瞬間的に20キログラム前後の力が必要とされるとも言われています。
また泡を封じ込めているシャンパーニュの瓶の内圧は6キロ前後で自家用車のタイヤの内圧以上をずっと支えています。
ちなみに6キロの内圧はバスのタイヤの内圧にも相当しています。そう言えば、少し以前まで瓶ビールの王冠の裏にもコルクが付いていましたね。
コルクはワインの貯蔵がガラス製のボトルになった200年前から栓をするために用いられ始めたとされており、科学技術の発達した現在でも未だに変化していない人類の知恵のひとつです。
昨今はコルクの粘土なども開発されて粉末のコルクも有効に活用されています。
さてさてワインの話からそれてしまいましたが、ようやく育ったコルクは各細胞が緩衝材の構造をとっており、1立方センチメートルあたり約4000万の閉細胞の集合体です。
この閉細胞のコルクは直径のおよそ35%程度に(元の太さの65%に)圧縮されてワインの瓶に挿入されます。
これより強く圧縮してしまうとコルクの微細な細胞が破壊され漏れの原因につながる恐れがあります。
逆にこれよりも 圧縮が弱いと抜け落ちやすくなります。
一般的には直径24mmのコルクを15.5~16mmくらいまで打栓機で圧縮し、直径17.5~18.5mmのワイン瓶の口に挿入します。
瓶の形状とコルクの関係
いろいろと計算されて封入されたコルクでも歳月などにより細胞が破壊され、コルクが浮き沈みしたり、ワインが吹きこぼれたりします。
こうした思わしくない現象に対してもコルクと液面の間のヘッドスペースと呼ばれる空間で吸収しているのですが、歳月が長いと中身のワインの質や瓶の形状にも知らず知らずのうちに影響します。
ボルドー型の瓶は首の付け根までほぼ円筒状になっていますが、ブルゴーニュ型の瓶やドイツ型の瓶は少しずつ広がる円錐状をしています。
経年保管されてくるとやはりボトルとコルクがきつく接している面積の広いボルドー型の瓶が貯蔵に向き、酸や液体に常にさらされているコルクに優しいようです。
これはスモモの酸度と同じ程度です。レモンはPh2.0程度ですから。
また、いわゆる「液漏れ」の危険性は内圧が2気圧になると高まるとされています。
この「液漏れ」現象は温度差によって生じますが、具体的な要因としては「ワインボトルのヘッドスペースの大きさ」と「コルクの耐性(密封性)」、そして 「ワインの中身(アルコール含有量、残糖量、炭酸ガス濃度など)」の関係が崩れたときに起こります。
液体は温度が高くなると体積が増えるのでボトリングの際には適切なヘッドスペースが計算されて詰められています。
ちなみに750ミリリットルのワインは気温が30度上昇すると体積が約7ミリリットル増え、この割合はアルコール度数や残糖分が多いほど増えます。
生産者によってはコルク下の空間であるこのヘッドスペースを真空などにして液漏れを回避しています。
しかしながらアルコール度数の高いブルゴーニュの特級ワインや、甘味の多いドイツワインが温度差に敏感で多少吹きやすいのも納得が行きます。
コルクのカビとコルク抜き
瓶内では酸素とは結びつかずに熟成しますので、いわゆる「還元熟成」をします。
またコルクに生えるカビは酸を好むカビですので人体に悪影響はありません。
酸にさらされながらも気密性を保てるのはコルクならではの業です。
そんなコルクでも古いワインのコルクは多少弱っています。もともと長い場合も多く、途中で切れやすいので長めのスクリューのあるワインオープナーをご利用ください。
そして「巻き数が4回以上ある密なもの」、「長さが4.5センチ以上ある長めのもの」をお奨めします。
力と技術に自信がなくても平気です。
「ダブルアクションのもの」をお求めください。もちろん刃の形状は「らせん金具のスクリュータイプ」を選んでください。